▼養生のすすめ1
そもそもそもそも、なんである。見舞いの言葉や、ジモティネットに助けられ
ながら休養中,,,,,。
ふいに1989年の会社を病欠した昼下がりのことを思い出した。
「電子司書求む!」なんてキャッチフレーズで社員募集していた商用パソコン通信会社、マスターネットに就職したばかり。人生初のサラ
リーマン生活に大はしゃぎしすぎてダウン!(笑って)。
当時住んでいた11階アパートの窓から拡がる青空が、妙に眩しくて息苦しく、退屈だったことをおぼえてる。
あまり家財のない室内には、毎日会社から帰ると、いきなり玄関からまっすぐのびるリビングの奥からテレピンの香
りとともに、牛の頭蓋骨や布や針金、真紅のタイプライターといったモチーフと80Fのキャンバスが、見えない三角形を成して自動的に私をその一角に座らせ
る。
友人の姉上に借りたOlivetti
社伝説のポータブル・タイプライター、Valentine。とりわけ真っ赤なその姿が、絵のモチーフとして最高の存在感で迫ってくる。
発熱でぼんやりした意識の中で、
「これってタイプライターだよな?、しかし。」
と思う。
真っ赤なValentineをベッドにひきよせてみた。
FとJに両方の人差し指をおいて、
「おおこれが正式なタイピングポジションかよ」
とキーを押し込んでみる。
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ピアノを弾くより一段とタッチが深くて、力がいる。
指の感触がいちいち脳みそのどこかに正確に押し込まれる。
面白い。
行の最後までいくと「チンっ!」と小気味よい音がして、まるで金髪の巻き髪に淡いグリーンのツィード、膝丈のスーツをきたメガネの秘
書が、横に立ってるような錯覚にさえ襲われる。
以来、入力装置として本来の価値を発揮した真っ赤なValentineには非常に励まされた。
無味乾燥なタイピングソフトではなく、脳天を直撃するとような彼女?の、Valentineのフォルムとその動きと一体になった私
は、単なるタイピングの練習モードから、一足飛びに意味のあるテキストをタイピングしたくなったのだもの。
病気などで、強制的に手持ち無沙汰という状況の中にも、意外にその後のものの見え方や、生活、人生にじわじわ影
響を及ぼす事象にひょいとめぐりあうもんだ。